2012年7月29日日曜日

第2回特別講義議事録①(ゲスト:小原一馬さん)


第2回特別講義(2012年7月27日)議事録①
ゲスト:小原一真さん ~サラリーマン辞めて3ヵ月後、フクイチ潜入~

記録:真木風樹(UGAYA JOURNALISM SCHOOL一期生)
以下、敬称は省略します。

 その日、ジャーナリズムスクールは若い写真家をゲストに迎えた。精悍な顔立ち。整った口ひげ。ウェービーな黒髪にハットがよく似合う。こちらが握手を求めると、立ち上がってこれに応じる。偉業を成した人物でありながら物腰は丁寧だ。
 小原一真。2011年8月上旬、まだどの報道機関も福島第一原子力発電所(フクイチ)の内部を撮影していなかった頃に内部に潜入。中の様子や原発作業員を動画、静止画で撮影し、「DAYS JAPAN」や独ZDFなどに取り上げられた。
 小原が成した仕事について、烏賀陽弘道は「私の固定観念をぶっ壊してくれた」と語る。26歳、キャリアわずか3カ月の人が、英ガーディアンや独ZDFに取り上げられたこと。マスコミ業界の人間、取材記者と呼ばれる人たちが誰も潜入取材をしなかったのに、キャリア3カ月の人がやる気と行動力で実行したこと。これらのことは烏賀陽にとって、嬉しいカルチャーショックだった。

 小原はなぜそんな風になれたのか?
 日本の主流メディア(新聞、テレビ局)に若手を育てる能力も意思もなくなる中、報道を志す人はどうすれば必要なジョブスキル、技術などを身に付けることができるのか?
 今回の特別講義は、そのヒントを見つけるためのものである。

原発内部の写真
まずわれわれは、小原に彼の写真を見せてもらう。写った場所の放射線量の高さに参加者から驚きの声が漏れる。

百聞は一見に如かず。本議事録をご覧の方も、彼のHPの「PHOTPGRAPHY」から実際の写真をご覧いただきたい。
 なお、「DAYS JAPAN」(11年9月号、12年4月号)でも、3.11以降の彼の写真を見ることができる。

(1号機、2号機の写真=HPの”Frontline in Fukushima””Image 5”
 相当な放射線量が出ていたが、作業員はそれを知らされず、後からテレビで知ることに。

う(烏賀陽)「東海村の臨界事故で2人亡くなったとき(99年のJCO臨海事故)を超える線量だから、即死だよね」。
お(小原)「この時期、どこが線量が高いかなどあまり把握できていなかった。さっきまで座っていた所が、めちゃめちゃ線量高かったなどということがよくあるんですよね」。
う「げ!」

(免震重要棟=HPの”Frontline in Fukushima””Image 7-9”
 日本の平均線量の約100倍の毎時10~16マイクロシーベルトの中で、作業員はマスクを外して休憩していた。
う「(写真にあるピンクのシートについて)これ、何?」
お「たぶん、放射性物質が付着するのを防ぐやつで、何日かおきに取り替えるんですね」。

動機
小原は当初、福島で撮影をする気はなかった。しかし偶然作業員を紹介され、原発事故の被害者が加害者の下で働く構図を目の当たりに。

 小原の初の福島入りは11年7月。

う「意外と遅いですね」。
お「それまではずっと岩手と宮城の被災地に。福島は確かに取ろうとは思っていたんですけど、“僕みたいな生半可な知識の人間に何が取れるんだろう”と思って」。

 小原は当時、すでに取られたものの後追いになって意味があるのかと考えていた。絵としても、である。ところがボランティアでたまたま、福島に案内してくれる人が現れたという。

う「連れて行ってくれた人は、中の様子を誰も知らないっていうことを不満に思っていたんでしょうねぇ」。
お「それもありましたね。ありましたし、僕自身、作業員の人に、福島に初めて入った日に会ったんですよ。コーディネイトしてくれた人が“魅力的な人がいるから”と言って会わせてくれたのが、作業員だったんですよ」。

 その作業員は元々は原発と関係のない仕事をしていたが、事故で仕事を失った。避難をしていたが、避難所生活では補償を打ち切られたりしたときにどうしようもないということで、ちゃんと働こうと考えたという。この時点では除染作業はなく、原発の復旧作業しか仕事がなかった。
 一個人として見たとき、この作業員のように原発の被害者でありながら、加害者の下で働くという構図がある。だから小原は、ポートレートのプロジェクトを始めようと思った。彼らがいなければ原発事故は収束しなかったのだから、注視してもらおうと思った。そのためには顔が必要だったという。

お「何かを暴きたいとかじゃなく、純粋にどんな人がいるのかなっていうのを見たかった。自分もマスクをして同じ経験をしたかった」。

 これが、誰もやらなかった偉業の動機なんだなぁ。

 (議事録②に続く)。

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